今回の記事は久々のいわゆるガチ研究記事です。後手四間飛車穴熊目線で、居飛車穴熊▲66銀型に対する見解、特に居飛車に最強の構えを目指された時の対策等を考えます。

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 まず、一般に四間飛車穴熊に対する、居飛車側の最強の構えとは何かを考えたい。もちろん、これは人によって違うだろう。
 しかし、筆者にとってはとある形が特に(四間側にとって)きつい、という認識があり、別の四間飛車穴熊党の強豪の方もその構えを同じくきついと話しているのを聞いたことがある。おそらく熟練の四間飛車穴熊党であれば皆この局面のきつさを味わっているのではないかと思う。その形というのがこの形である。

(図は▲79金まで)
 または後手の組み方で広瀬流を意識した組み方であればこちらのパターンもある。

 先手の構えはシンプルで、ただ金を寄せていっているだけである。しかしこれが厄介なのだ。
例えば両図とも、△45歩と突きたいのだが、それは▲57銀と角交換を挑まれると後手だけ△33角を打たされる形となり、これ以降は後手は千日手を目指すことすら容易ではなくなる。

 ▲78金寄が入ればその瞬間△45歩と突ける(△77角成〜△39角〜△57角成〜△46歩の筋がある)が、それが入るまでは永遠に△45歩を突けないことになり、非常に厄介である。
 この局面が実現しうるかは先手の穴熊の組み方の問題と直結する。どのように直結するかは2冊の棋書を見てみるとよく分かるだろう。
 四間飛車穴熊の急所2(広瀬本)では(先後逆)そもそもこれに組ませるとまずいという評価をしていると思われる。というのも、穴熊の組み方上、不用意に▲99玉とすると△45歩と突かれてしまい、▲57銀△77角成▲同桂は振り飛車やれる。
 また、▲68金まで寄せてから▲99玉も▲78金上まで入れないと△45歩▲57銀△77角成でやはり△39角の筋がある関係上▲同桂とせざるを得ず、▲同桂とするなら振り飛車させるとしてこの組み方も危険としている。

 次に▲78金として穴熊に組みに行くのは△45歩からの開戦の筋こそないものの広瀬流で戦う指し方を示して後手やれるとしている。
 よって▲78金+▲68金と金を並べる穴熊の組み方を先手は採らざるを得ず、それには後の▲36歩の瞬間に△45銀と出て勝負する指し方を解説し振り飛車やれるとしている。

 一方四間飛車穴熊のすべて(青嶋本)でも△77角成▲同桂の展開は振り飛車やれるとの考えを継承しつつ、穴熊をギリギリまで保留して展開によっては穴熊を放棄し美濃も勧めている点が特徴的である。
 例えば以下の図は▲68金型だが▲99玉を入る前に△45歩と突き、▲57銀は△77角成▲同桂となり後手十分、よって図では▲55歩だがそこから美濃+速攻策で後手指せるとしている。

 結局青嶋本も広瀬本同様穴熊に組むには▲78金+▲68金形を一旦作る必要があるとし、その場合には居飛車はいつか指すはずの▲79金でスムーズに金を寄せた場合より一手損するため、その変化であれば以下の図の様になり、これは後手戦える、といったようなことが示されている。


 まとめると、どちらも上記局面自体を危険とした上で居飛車穴熊の組み方の問題上そもそもこの局面にはならない、という前提のもと解説されているといえる。では本当にこの局面にならない(先手が金を手損なく穴熊を安全に組むことができない)のか。私は答えはノーだと考えている。
 例えば以下の図を見てほしい。

 この局面は先手が一番不用意に(=後手にとって条件が良い)穴熊に組みにいった局面である。広瀬本、青嶋本の考え方を前提とすればこれは△45歩と突いて▲57銀△77角成▲同桂と進み、これは後手指せるはずである。

しかし、ソフト(水匠5)によれば、その局面も評価値は先手が150程度良い。(ちなみにソフト最善は△45歩に▲55歩であるがこれは後手も戦いにしやすいと思う。)
もちろん評価値だけが全てではないし、この程度の評価値など誤差のようなものである。しかしその後局面を進めてみる。

 この様に銀冠に組み替えられると後手が一方的に角を手放しているのが痛く、自ら攻める道はない。よって千日手を目標にするのだがそれも角を持っている先手にうまく手を作られて打開されることが多いと感じている。
 筆者の経験上も△77角成▲同桂以下の局面の勝率は乏しくない。評価値上はなおも先手100〜200程度であるが、筆者の体感は400くらいで後手勝ちにくいと考えている。
 このように、△77角成に▲同桂の変化は決して後手指せると言い切れる様なものではなく、そうであれば先手は穴熊の組み方を手損してまで工夫する必要はなく、例の局面を簡単に作れてしまうことになり、後手としては避け難い。これがこの局面の真の恐ろしさなのだ。
 それでも後手としてはなんとかできないか。次回以降光明を探していこうと思う。